固定残業代とは?会社のメリットとデメリット、求人応募者の心理
固定残業代で起きている問題
固定残業代(みなし残業代)とは、給料の中に、あらかじめ一定時間分の残業代を含ませておくことで、残業の有無にかかわらず一定の残業代を固定して支払うことを会社で定めていることを指します。
例)月50時間の残業代(○○○○○円)を含むという感じ
上記の例など、雇用契約書に記載されている場合には、月50時間までは別途残業代を支払うことを要しません。
50時間を超えた場合は残業代を別途支払ってもらえます。
このようにしっかり残業代を支払ってもらえるので事業者側に違法性はないが、求人応募者にとってものすごく不快な固定残業も増えてきています。
固定残業代の種類
まず、固定残業代の根拠労条文です。
労働基準法 第三十八条の三
使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)
二 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
三 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。
四 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
五 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
六 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
⇒引用元:電子政府の総合窓口e-Gov
第38条をかみ砕いて話をすると以下の通りです。
労働組合か労働組合がないときはその代表者と、話し合って書面で決めた場合1号の内容につかせたときは2号の時間は仕事をしたことと同じとする。
という内容。
第38条第1項1号と同条同項2号をかみ砕いてお話すると以下の通りです。
1号は、労働者に対して、仕事の内容や進め方、時間配分の決定権について会社が具体的に指示することが難しい場合にみなし残業の対象にする
2号は、対象業務として固定残業代を決めることができるという感じです。
2号の流れはざっくりいうと、労働時間の設定ができる ⇒ 労働時間なので給与支払い対象 ⇒ 残業設定するなら残業代発生。という流れになります。
よくあるみなし残業の体制は以下の通りです。
裁量労働制
開発者や研究者など会社が指示するよりも自ら時間配分などを決定し、業務を行うことが良いという場合は対象業務として固定残業代が採用されることがあります。プログラマーやシステムエンジニア、コンサルタント業務によく見られます。
事業所内労働制
労働者の動きが把握できないときに適用します。
営業などで外出が多い場合に対象業務として固定残業代が適用されます。また、トラックでの配送業にも適用される場合があります。
つまり、事業者はやろうと思えば結構広範囲で固定残業代の設定が可能となるわけです。
固定残業代を設定するうえでの会社の注意事項
3号~6号は対象業務を行う上での会社が注意する内容です。
3号 仕事の進め方や時間について会社が具体的な指示をしちゃダメ
4号 労働時間に応じて健康や福祉に気を使って確保しないとダメ
5号 労働者から苦情があるとき事業者は措置がとれるように定めること
6号 他は厚生労働省令で定める(これは細かいので割愛)
固定残業代は会社にとってメリット
なぜこんなことを会社は行うのか。当然メリットがあるからです。会社のメリットは以下の通りです。
- 求人募集時に給料を高く見せることができる
- 基本給が減らせるから残業代の対象も安い人件費削減
- 給与計算時間の削減
給料が高く見えることから求人募集において応募者数を増やすことに貢献し、残業があってもなくても設定時間範囲なら計算不要となり、給与計算の負担を減らして経理部の業務効率化を図ることができます。
会社のデメリット – 求職者の気持ち
近年では『固定残業代』というものが多く目に入り、求職者も固定残業代という文字と数字を見て考えて、敬遠するようになってきました。求職者はこんなことを考えています。
- 固定残業代を設定する会社はうさんくさく感じるという不信感
- 残業があると実質的に無償で残業している気分になりモチベ低下
- 基本給少ないから残業代も賞与も安いんじゃないかという不安感
これらにより、逆に求人応募者が減る現象が起きているというわけです。
労働基準監督署職員から聞いた話
2021年4月4日。労働基準監督署で話をしてたんだけどね、某労働基準監督署某職員はこんなことを言ってました。
『求職者は固定残業代を設定している会社を避けている人が多い傾向に見える、残業がないのに固定残業代を設定している会社が多い。確かに会社にはメリットがあるから設定しているのかもしれないけど、残業がないなら固定残業代なんて設定しなくていい気がする。設定しないでしっかり計算して残業代を払ってあげればいいのに。そうすれば求職者増えると思うよ。何を設定するかは法律に反しなければ会社の自由だから、私は何かを言える立場ではないけどね。』
だそうです。
労働基準監督署職員は立場上何も言えないけど、良い印象抱いていないんだなとこまるblog運営者は感じました。
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こまるblog運営者の固定残業代問題の実体験
こまるblog運営者は、仕事かけもちしてがんばっていたので、多職種の仕事を経験しています。今回はその中の固定残業代についてです。
実体験1:車とバイクの整備工
零細企業(母体である親会社は大きい)にて、業務が終了してて、でも社長がOKするまで帰れない(業務終了後なにもせずに平均2時間)という不当拘束をする会社。
従業員全員が怒り爆発して、全員で労働基準監督署へ。
就業規則にいつの間にかみなし残業代30時間を含むと記載あり。就業規則の存在すら知りませんでした。
就業規則に基づいて、みなし残業を超えた部分の残業代未払いの支払い指導が会社にあったが、社長はさらなる不思議行動にでる。
『残業代を支払ったことにしてもらってるから、この書面に署名しといてくれ』
『えっ!?』
もちろん、これを受けて、全員で再度労働基準監督署へ。
会社の対応等:
固定残業代を超える部分の未払い残業代3か月分を従業員全員に支払った。
実体験2:営業職の営業手当
営業職で、基本給19万円 + 営業手当3万円 + 歩合給
という会社でした。
労働基準監督署が、突然訪問してきて調査(密告か??)し、営業手当は固定残業代であり、調査の結果3万円ではたりないので、固定残業代を5万円以上に設定するか、通常の残業代を従業員に支払ってくださいという指導。
会社の対応等:
未払い営業手当(残業代)を支払い、給与の内訳を変更。
基本給17万円 + 営業手当5万円 + 歩合給
違法性はなくなりましたが、基本給を減らすというあきれた対応によって営業職の12人中5人が退職しました。
実体験3:3tトラックの運転手
こまるblog運営者!まだあるんかい的なね。
面接時に言われたのはこんな内容です。『月給270,628円、みなし残業80時間(残業代97,268円)含む。ほとんど残業ないけど、外に出る仕事だから渋滞とかあれば帰りが遅くなることがある。問題なければ定時で帰れるよ』というもの。念を押して、『夜は週3で資格予備校に行くから残業は基本出来ません。何かトラブルがあった時は資格予備校に遅刻していくか休んで対応します。』と伝え、会社側も了承して入社。
入社初日のこと。
配送業務は定時ちょい過ぎに終わり、一か月もすればなれるよ。とのことでした。
さて次からが問題点です。
配送業務の後、商品の発注や各社への営業電話、伝票整理などで、残業は3.5時間ほど。
完全週休二日制だったので残業時間は77時間です。
さてここで、給料を残業代と基本給に分けて細かく計算したらですね。。。
○○県の最低賃金の最低時給の985円(当時)になりました。
某地方での3tトラック運転手の時給計算相場は、1,300円以上です。
対応:
話が違う、やり方がひどいということで即日自主退職しました。
実体験1~3をご覧の通り、みなし残業代制度は形骸化(形だけ残っていて実際はまともな運用がされていない)している会社が非常に多いということが社会問題というところなのです。
まとめ
では、固定残業代全部がだめなのかというとそうではないです。
固定残業代の適正な取扱い、会社にとってのメリットを活かしつつ、求職者にとってデメリットでなく、かつ、メリットを感じ取れるような給与体系、福利厚生があれば、双方にとって良い関係の構築も可能でしょう。
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